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平成27年5月1日より改正会社法が施行されました。近年、経済のグローバル化が進んでいることを背景に取締役に対する監督のあり方を中心にコーポレート・ガバナンスの強化を図るべきだとの指摘がなされていたことや、以前より親子会社に対する規律の整備の必要性が高まっていたことを受けての改正です。
このような経緯から、今回の改正の内容はコーポレート・ガバナンスの強化や親子会社に関する規律の整備が中心となっています。
弊所においては、中小企業の経営者様や法務担当者様にご質問をいただく機会が多いことから、会社法のみならず商業登記規則等の関連法規の改正なども併せて、中小企業においての実務上、関連性が高い部分についてご案内します。
従前より公開会社でない株式会社においては、定款において監査役の権限を会計監査のみに限定し、業務監査については権限を有しないとすることが可能でした。しかし、この定めは登記事項とはされていなかったため、外部の者が登記記録を見ても、その監査役が業務監査権限を有しているのかわかりませんでした。
このような実務上の不都合解消のため、会計限定監査役である旨が登記事項とされました。なお、改正会社法施行時において監査役の監査の範囲を会計に限定する旨の定款の定めがある株式会社は、施行されたからといって慌ててこの登記をする必要は無く、施行後最初の監査役の就任または退任のときまで登記時期が猶予されています。
従前は社外取締役の定義が大雑把に定められていたため、親会社や兄弟会社の業務執行に従事した者は社外取締役になることができたことから、これらの者には業務執行者に対する実効的な監督を期待できないとの指摘がありました。また、過去に1度でも対象株式会社の業務に従事した者は社外取締役の要件を満たさないことから、「1度でも」と言うのは厳し過ぎるという指摘がなされていました。
そして社外監査役についても同様の問題があったため、改正会社法においては、前者についてはその要件を厳格に定めることとし、後者については就任前における対象株式会社またはその子会社との関係についての要件の対象期間を原則10年間としました。
これに伴い、責任限定契約(会社法第423条第1項の責任につき、職務を行うにつき善意無重過失であるときは定款で定めた額または最低責任限度額のいずれか高い額を限度とする旨の契約。)の対象は、非業務執行取締役、会計参与、監査役または会計監査人とされました。責任限定契約の対象となる取締役及び監査役につき、社外性よりも非業務執行者であることに基準を移したことになります。
事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は当該事業年度に関する定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならないこととされました。また、株主からの質問を待たずに積極的に説明することを要し、説明義務違反は取締役の選任議案に関して決議の取消事由となり得ます。
取締役、監査役または執行役の就任登記申請の際、印鑑証明書を添付する場合を除き、原則、本人確認証明書の添付を要することとなりました。ここでいう本人確認証明書には、「住所及び氏名」の記載があることを要します。代表的なものとしては、住民票の写しが挙げられますが、これに対して、手書きで住所の記載がある旅券は認められません。
また、印鑑の提出をしている代表取締役や代表執行役の辞任の登記申請の際、辞任届に押印した印鑑に係る印鑑証明書を提出するか、または辞任届に法務局届出印の押印を要することとなりました。
従前、募集株式が譲渡制限株式である場合には定款に別段の定めがない限り、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の決議を要求していました。しかし、総数引受契約による場合にはこの決議が要求されていなかったため、会社の好まない者の参入を拒否する、あるいは譲渡制限株主の持株比率を保護するという要請に充分に応えていないという問題がありました。
そこで改正会社法においては、募集株式が譲渡制限株式であるときには、総数引受契約による場合であっても、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の承認決議を受けなければならないことになりました。
非取締役会設置会社においては、募集株式発行決議及び割当決議は株主総会によることになるため、発行会社の負担はそう大きくないのですが、取締役会設置会社においては、原則、株主総会で募集株式発行決議したうえ、取締役会で総数引受契約の承認決議が必要となるため、手間と時間の面で従前より多少の手間が増えてしまうことになります。これを避けたい場合には、定款に別段の定めをなし、承認決議の権限を株主総会や代表取締役に移すなど、何らかの対策を講じることを要します。
従前、株式併合に際して各株主の端数(1株未満株式)が生じた場合、その端数の合計に対応する併合後の株式の合計数を裁判所の任意売却手続等を経て金銭に代え、端数株主に分配する方法しかなかったため、これにより株主でなくなる者も出現し、株式単位が大きくなり売却も困難になることもあり、株主に不利益が生じかねないとされたことから、組織再編同様に事前開示、差止請求、買取請求の制度が定められました。
簡易組織再編において、反対株主の買取請求が否定されました。分割会社の簡易分割では従前から買取請求は否定されていましたが、存続会社側の簡易手続でも否定されました。
また、差止請求についても簡易組織再編においては否定されました。更に、略式組織再編においても特別支配会社は反対株主に含まれないこととなり、再編の通知も不要となりました。
反対株主の株式買取請求は、株主に多大な不利益を与える場合に認められていますが、これはあたかも会社の行為に反対して出資契約を解除し、自ら出資金の返還を請求する制度かのようであり、その性格から買取金額について折り合いがつかないこともあり、多少の紛争の種を孕むという面があります。そこで改正会社法では、買取請求に関して、下記のいくつかの規定が新設されました。
従前より詐害的な会社分割がなされた場合には、民法上の詐害行為取消権が用いられているところですが、残存債権者の保護を図るためには会社分割による財産の移転を取消すまでの必要はなく、端的に残存債権者が承継会社等に対して債務の履行を直接請求できるとする方が直接的であり簡明であるとの考えから、残存債権者は承継会社等に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できることとされました。
詐害的な事業譲渡、営業譲渡に対しても同様の規定が設けられ、これにより残存債権者が債権を回収するために採り得る手段が増えたことになります。
会社分割における債権者保護手続きには、官報公告と各別の催告の2つの方法がありますが、このうち各別の催告の対象となるのは当然ながら会社に「知れている債権者」であり、各別の催告を受けなかった「知れている債権者」は分割会社及び分割承継会社に対し、一定の条件のもとに債務の履行を請求できるものとされています。
対して、各別の催告を受けなかった債権者の内、会社に「知れていなかった債権者」については保護が及んでいなかったため、これを改正し、「知れていなかった債権者」であり各別の催告を受けなかった債権者についても同様の保護がなされることとなりました。
なお、分割会社が官報に加え日刊新聞紙または電子公告による公告を行った場合には催告に代えることができますが、不法行為債権者への催告を公告に代えることはできない点は従前と同様です。
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